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神戸家庭裁判所 昭和50年(家)974号 審判

国籍 カナダ国ブリテイッシュ・コロンビア州

住所 神戸市灘区

申立人 トーマス・エル・ブラム(仮名)

国籍 アメリカ合衆国ペンシルヴェニア州

住所 アメリカ合衆国カルフォルニア州

相手方 キム・エリナ・ブラム(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

理由

第1当裁判所昭和五〇年(家イ)第三二六号離婚事件記録及び本件記録中の相手方から当裁判所宛の各書面並びに当裁判所の申立人及び相手方代理人に対する各審問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1  申立人と相手方とは、トルコで知り合い、ともに一九七〇年(昭和四五年)八月頃来日し、一九七一年(昭和四六年)七月六日神戸市において婚姻し、神戸市内に居住し、ともに英語教師をしていた夫婦である。

2  申立人と相手方とは、その後一九七二年(昭和四七年)初めから、一九七四年(昭和四九年)初めにかけ約二年間アフリカに旅行し、再び一九七四年(昭和四九年)二月頃来日し、神戸市内に居住するようになつたが、アフリカ旅行中であつた一九七三年頃から、将来の生活方針について根本的に意見が対立し、とくに相手方は子を儲けて将来アメリカにおいて生活したいと主張するのに対し、申立人は子を儲けることにも、またアメリカにおいて生活することにも反対で、このまま日本に居住したいと主張したため、双方の仲は次第に悪化し、些細なことで互いに感情的に対立し、口論となることも多く、互いに他から同居の継続に耐えられない程精神的に虐待されていると感ずるようになり、遂に一九七五年(昭和五〇年)一月中旬頃別居するに至つた。

3  申立人と相手方とは、別居後何回か話し合つた結果、離婚するほかないとの合意に達し、相手方は、一九七五年(昭和五〇年)四月一日当裁判所に対し、申立人との離婚を求める調停の申立(昭和五〇年家イ第三二六号事件)をした。

4  当裁判所調停委員会は、第一回調停期日を一九七五年(昭和五〇年)六月二四日に指定したところ、相手方は同期日直前に相手方の父の病気看護のため急に現住所であるアメリカカリフォルニア州に帰国し、調停に出席できないため、同年六月二七日に上記調停の申立を取り下げた。

5  その後相手方は、一九七五年(昭和五〇年)八月一四日付当裁判所宛の書面で、訪日することはできないが、日本の裁判所において相手方と離婚する方法を教示してほしい、方法があるならば申立人にも連絡し、所要の手続をするよう援助してほしい旨の意思表明があつたので、当裁判所は、申立人に連絡したところ、申立人から同年九月一八日に本件調停の申立がなされたので、相手方に対し、日本に在住する適当な者を代理人として選任し、本件調停に相手方に代わつて出頭することの許可書を提出するよう連絡したところ、相手方は日本に在住する知人であるアメリカ人ウイリアム・デイビスを代理人として選任し、代理人許可申請書を提出したので、当裁判所はこれを許可した。

第2上記認定事実によると、当事者双方とも外国人であり、本件は渉外事件なので、まず本件につき日本国裁判所が裁判管轄権を有するか否かが問題となる。

一般に渉外離婚事件の裁判管轄権については、被告または相手方の住所地のある国の裁判所が裁判管轄権を有し、被告または相手方が原告または申立人を遺棄している等特別の事情がある場合に限り、原告または申立人の住所地のある国の裁判所が例外的に裁判管轄権を有すると解されており、この点からすると、本件の相手方の住所は、アメリカカリフォルニア州にあるので、本件につき日本国裁判所は裁判管轄権を有しないのではないかとの疑問が存する。しかし、本件は調停事件であり、相手方は出頭できないとしても、代理人を代わりに出頭させ、本件申立に応ずる意向であり、しかも申立人は日本に在住しているから、このような場合には、特別の事情がある場合として、日本国の裁判所が裁判管轄権を有するものと解するのが相当である。

次に本件離婚の準拠法であるが、日本国法例第一六条によると、離婚の原因たる事実の発生した時における夫の本国法が準拠法であるとされているから、本件については離婚原因たる事実が発生した時、夫である申立人の本国法であるカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州の法律が準拠法であると解される。

第3カナダ国ブリテイッシュ・コロンビア州法によると、離婚については一九六八年七月二日以降、カナダ国離婚法(S・C・一九六七~六八・C・二四)が同州を含むカナダ全土に適用されており、同離婚法によると離婚原因は、婚姻式挙行後(1)不貞行為をしたこと(2)男色、獣姦、強姦で有罪とされるかまたは同性愛的行状があつたこと(3)他の者と婚姻の形式をふむ生活を経験したこと(4)配偶者が同居を継続することに耐えられぬ程度に肉体的または精神的に虐待したこと(同法第三条)である。

上記認定事実によれば、本件申立人と相手方とは、将来の生活方針について根本的な対立を来たし、そのため些細なことで感情的に対立し、相互に同居の継続に耐えられぬ程他から精神的に虐待されていると感ずるようになり、別居し、その後も何回となく話し合い離婚のほかないとの合意に達したというのであるから、本件については、相互に離婚原因たる同居の継続に耐えられぬ程度の精神的虐待があつたものと認めることができる。

第4本件についての当裁判所調停委員会の第一回調停期日は一九七五年(昭和五〇年)一一月一一日に行なわれ、申立人及び相手方代理人が出頭したので、事情を聴取し調停を試みたところ、離婚することについて双方の意向が一致しており、しかも上記の如く離婚原因たる事実が存在するので、もし相手方本人が出頭することができれば、離婚調停を成立させることができるのであるが、相手方は出頭することができないので離婚調停を成立させることはできなかつた。

しかし、当裁判所は、家事調停委員西原道雄、同尾上孝子の各意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を観て、本件においては、事件の解決のため離婚の審判をすることが相当と認められるので、日本国家事審判法第二四条第一項により、主文のとおり審判した次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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